思慮するゾンビ

白くて何もない部屋で過ごしたい。それは保護室ですか?牢獄ですか?あ、でも毛の長い猫がいるといい。撫でている間に日も暮れるかな。

今の部屋はうるさすぎる。白い部分が少ない。片づけても片づけてもあふれるいらないもの。愛着のないぬいぐるみ。捨てられない手紙。空き瓶。好きな短歌をふせんにかいて貼っているベッド際の壁だけが好き。たとえば、

 袖口を嗅ぐだけでねむたくなれる 普段着で過ごすうつくしい日々/岡野大嗣

 自転車できみがむかえに来てくれる このまま轢いてほしいと思う/谷川電話

 手を当てて きみの鼓動を聴いてから てのひらだけがずっとみずうみ/大森静佳

 履歴書をびりびりに破いて布団にもぐる。さむい。脳みそを使わずに思考するのはひどく危険だ。そういうのは詩を書く時だけでいいのに。逃げていいよって言われた途端逃げ癖がついたし、かわいそうだねって言われたら絶望癖がついた。人を困らせてしまう、でもわたしも困っている。全部バラバラにしたい。ジグゾーパズルも壊すのは簡単。特に美しくもないかけらに成り下がっていく。どこまで分解すれば自分のことわかるんだろ。わたしはいるの?今日の私は死んで明日の私が生まれてゆくの?ただ、ゴールは白い部屋。