むしかご

床に落ちてる、キティちゃんのコップ、蓋のないペットボトル、ばらばらに開いた睡眠薬のシート、岩波文庫。世界の終わりみたいな部屋に、廊下を照らす蛍光灯の白い光が月明かりみたいに入ってくる。わたしだけのお月様。

 ひとりでいたいのに抱きしめてほしいなんて、笑っちゃうよね。布団は軽すぎて頼りないし、お気に入りのタオルケットもわたしの匂いしかしない。それなら起きあがってしまえばいいのに、身体は重すぎてベッドに縫い付けられている。

 バイトがない日は、13時くらいまで寝てたい。そっから好きなバンドのDVDを見て、聞き飽きた曲を弾いて歌ったりして、夕陽が入るのを待つ。暗くなって陽が白い光に代わったら、布団にもぐって文字を打つ。眠れない夜はきみに電話をする。きみがいるけど何処にもいない、重たくて厚いカーテンの中の暮らし。