さよならを教えて

貸してもらったモバイルバッテリー、一生返したくないな。貸した歌集につけた付箋に私を思い出してほしい。健全に帰される午後8時すぎ、ホテルに連れて行かれた日を思い出す。電車は知らない街を走っている。君は私の偽名を呼び続ける。いっそその名前に、君のための人格に、なりたい。私以外になりたい。君になりたい。心地いい酔いのまま、また知らない街に流れ着くならよかったよ、でも叶わないから、君とバニラアイス食べられないから、私、セブンティーンアイスをひとりで食べるね。キャラメルリボンが1番好きだとか、トイレのドアを蹴られ続けた話とか、教えたい。どうでもいいこと、でも特別でいられる秘密を。絶対に果たしたい約束、まだ捕まえられない手のひら、それに殺されたい。私の気持ち悪いところぜんぶぜんぶ好きになってくれたらきっと、私は君のこと好きになるし、そしてすぐに嫌いになって、永遠にさよならをするよ。好きでいてね、いちごの果汁を、レモンサワーを、私の弱さを。その荒れた指で掬いあげた私に、早くさよならを教えてね。